YAレビュー
火
01
5月
2012
夢の彼方への旅
著者はエヴァ・イボットソンさん
出版社は偕成社です。
イボットソンさんの作品は
アレックスとゆうれいたち
幽霊派遣会社
を過去記事で紹介しています。
今まで紹介したイボットソン作品2冊は幽霊モノでしたが
この「夢の彼方への旅」は全然テーマが違います。
YAと児童書の中間くらいな作品なので
どちらにするか悩んだ後、本の厚さや文字の大きさなどでYAにしました。
舞台になるアマゾン。
このエキゾティックさに反応するか、しないか。
主人公のマイアは反応しました。彼女は図書館の本でこんな記述を見つけます。(以下「 」内、本文より抜粋)
「アマゾンを緑の地獄だと思いこんでいれば、このすばらしい土地に恐怖と偏見を持ちこむだけである。その場所が、地獄になるか楽園になるかは、あなたしだいなのだ。勇気とひらかれたココロを持ってその地にのぞむ人は、かならずそこに楽園を見いだすことだろう」
マイアは楽園を見いだすことを決意しました。
学園の他の子たちは、同じようにアマゾンについて調べても
怖ろしい場所であるという記述しか見つけられませんでした。
これをね
『どんな場所にでも共通すること』
ってくくっちゃうことはわりとカンタンかな…と思います。
抜粋しながらそんなふうにまとめそうにもなりましたしね。
でも
それより強く
この本で伝えたいのは
アマゾンという場所への憧れ
なんです。
反応する場所って、人によって様々です。
たとえば、先日紹介した『少年』の著者、ロアルド・ダールさんはアフリカに憧れてルンルンで赴任しましたし
オンム・セティことドロシー・ルイーズ・イーディーさんは幼いころからエジプトに焦がれるように想いを馳せて移住しました。
そして
マイアと家庭教師のミントン先生は
アマゾンに魅せられ、その自然の中で過ごしたかったのです。
実際のところ
マイアをひきとった親戚の人たちは
アマゾンに魅せられた人々ではなかったので
彼女たちはなかなかに苦労します。
策を練り、実行するのはミントン先生。
でも、それをマイアに事前に知らせることはしません。
水くさい?
いいえ、なにかあったときにマイアを守るには
あんまりいろんなことを知らせない方がいいからです。
大事な部分に来たときは、ちゃんと打ち明けていますしね。
このミントン先生がすごく頼もしくて
安心して読める大きな要素になっています。
奇妙な風習や奇妙な人に出会ったときに「大丈夫」って思える人がいるって
現実でも、本の中でも安心できるものですね。
しかし
このミントン先生
アマゾン行きの船あたりから、なんとなく
タダモノではない雰囲気がありまして
アマゾンでは一筋縄ではいかないかっちょよさを発揮。
<しなくてはいけないこと>と<自分で自由の道を選ばせる>ことを両立させようとするなんて
そんじょそこらの女性では考えつきもしないでしょう。
こんなふうにまっとうでありながら冒険心あふれる大人が見守ってくれるのですから
周囲の環境がちょっとくらいアレでも、道は見つかるというものです!
この本には、マイアを中心とするメインの物語があり
それより一世代前のサイドストーリーがあります。
そのサイドストーリーで重要な役割を果たしていたのが、このミントン先生なのでした。
メインの物語も、実をいうとアマゾンのストーリーとイギリスのストーリーがあり
こんなふうに書くとごちゃごちゃしているように思われそうなんですが
読んでみるとそれぞれの絡みかたもわかりやすいものですから
読みにくさはないはずです。
ワタシ、こういういろんなストーリーが伏線的に起きて、絡んではまる物語、好きなんですよねぇ♪
この『はまる』感は
物語でいうところの『自分の居場所』と共通するものがあるでしょうね。
今回、ワタシにしてはめずらしく抜粋が多いですが
これが自分の居場所だ、と思える場所を得られることについて
ミントン先生の名言を以下に抜粋。
「ご両親が亡くなったとき、マイアの中でなにかがこわれてしまったのだと思います。でもそれが、アマゾンの大自然の中で癒された。(中略)子どもは大きな人生を歩まなければなりません……それだけの力を内に秘めている子どもならば。そしてマイアはその力を持っているんです」
誰かを亡くす、ということに限らず
人の中で何かが壊れてしまうことって、あります。
でも、人は、それを癒すこともまたできるのです。
人によっては、どこかの場所にいることで。
人によっては、なにかを自分がすることで。
人を読むことかも?
この本とアマゾンの自然や、そこに住む人々、そこを楽しむ人々の物語で
少しでも気持ちが癒される人がいたらいいな…と思います。
木
02
2月
2012
くちびるに歌を
恋の話もからみますが、嫌味じゃなく邪魔じゃなく(←私は恋愛小説はまったくと言っていいほど読みません)、とにかく清清しいですね。
また、課題曲の「手紙~拝啓 十五の君へ~」にちなんで十五年後の自分に向けて手紙を書く課題があり、ある少年が書いたその手紙に泣かされました。
いい本読んだな~と思える作品でした。
残りの予算で図書室に入れられたら、生徒達にもぜひPUSHしたいです。
水
28
12月
2011
【特集:2011年のベスト本】YA*cafeでおすすめされていた本-その2
引き続き、YA*cafeでみなさんがおすすめしていた本をご紹介します!
ロニー ショッター (著), 中村 悦子 (イラスト), 千葉 茂樹 (翻訳)
あすなろ書房 2004年
夜の闇からあらわれた黒人の一家。偶然目をさましたアマンダは、おとなたちの“秘密”を知ってしまう。いったいその秘密とは…。逃亡奴隷を助けた一家の物語。(「BOOK」データベースより)
ジャック ギャントス (著), 前沢 明枝 (翻訳)
徳間書店 2007年
ジョーイは小学四年生の男の子。いつも考えるより先に行動してしまい、騒ぎをおこしてばかり。悪気はないのに、どうしてもじっとしていることができず、まわりから「問題児」だと思われている。幼いときに別れたきりだったお母さんがもどってきて、新しい生活がはじまったのもつかのま、教室で事故をおこして、クラスの女の子にケガをさせてしまい、しばらくの間、「特別支援センター」にかようことになった。もう、もとの学校にはもどれないかもしれない、と落ちこむジョーイ。ところが、支援センターはジョーイが想像していたようなこわい場所ではなかった。自分に合った治療やカウンセリングを受けたジョーイは、考え方や行動を少しずつ自分でコントロールできるようになり…。個性豊かな少年の内面を、ユーモアあふれる筆致でこまやかにすくいとった、一気に惹きこまれる物語。全米図書賞最終候補作。小学校中・高学年から。(「BOOK」データベースより)
橋本 紡 (著), 山本 ケイジ (イラスト)
電撃文庫 2003年
いきなり入院した。僕にとってはちょっと早い冬休みみたいなもんだ。病院には同い年の里香って子がいた。彼女はわがままだった。まるで王女さまのようだった。でも、そんな里香のわがままは必然だったんだ…。里香は時々、黙り込む。砲台山をじっと見つめていたりする。僕がそばにいても完全無視だ。いつの日か、僕の手は彼女に届くんだろうか?彼女を望む場所につれていってあげられるんだろうか―?第4回電撃ゲーム小説大賞金賞受賞の橋本紡が贈る期待の新シリーズ第一弾(「BOOK」データベースより)
伊藤 計劃 (著)
ハヤカワ文庫 2010年
21世紀後半、「大災禍」と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は大規模な福祉厚生社会を築きあげていた。医療分子の発達で病気がほぼ放逐され、見せかけの優しさや倫理が横溢する“ユートピア”。そんな社会に倦んだ3人の少女は餓死することを選択した―それから13年。死ねなかった少女・霧慧トァンは、世界を襲う大混乱の陰にただひとり死んだはずの少女の影を見る―『虐殺器官』の著者が描く、ユートピアの臨界点。第30回日本SF大賞受賞、「ベストSF2009」第1位、第40回星雲賞日本長編部門受賞作。 (「BOOK」データベースより)
月
26
12月
2011
【特集:2011年のベスト本】YA*cafeでおすすめされていた本-その1
以前参加した、YA作品の読書会「YA*cafe」。今回はおすすめのYA作品を1、2冊を持ち寄って集まるとのことで、行ってきました。新刊既刊、児童書一般書さまざまで、YAの入り口からみなさん面白い読書体験に広がっているんだな、と実感しましたよ!
参加したみなさんのおすすめ作品を、ランダムにご紹介していきます。
エリアセル・カンシーノ=著, 猫野ぺすか=イラスト, 宇野和美=訳 偕成社 2010年
つい、うそばかりついて、学校にも行かない少年ペリーコ、村にただひとりのイギリス人フォスターさん。ふたりの出会いは、ペリーコの世界を大きく変えていく。一九六〇年代スペイン、海辺の村を舞台にえがかれるだれもが共感する、みずみずしい成長の物語。スペイン実力派作家のアランダール賞受賞作。小学校高学年から。(「BOOK」データベースより)
ジャクリーン ケリー (著), 斎藤 倫子 (翻訳) ほるぷ出版 2011年
1899年、新世紀を目前にしたテキサスの田舎町。11歳のキャルパーニアは、変わり者のおじいちゃんの「共同研究者」となり、実験や観察をかさねるうち、しだいに科学のおもしろさにひかれていきますが…。ニューベリー賞オナー作。(「BOOK」データベースより)
北 杜夫 文春文庫(新装板)2009年
一国の国家予算を超える盗みを働き、地球上に足跡の及ばざるところは皆無。明智小五郎やジェームズ・ボンドさえも翻弄する正体不明の大怪盗、ジバコ。彼の超人的かつ「1万ドルを盗むのに10万ドルをかける」少々フシギな活躍を描いた、北杜夫のユーモア小説における代表作(「BOOK」データベースより)
土
24
9月
2011
六本木少女地獄
現役女子高校生による、戯曲集です。
著者の原くくるは高校中退後、チャレンジスクールである都立六本木高校に入学して3人しかいない演劇部に入部。表題作の脚本、演出、出演をつとめ、都演劇コンクールで教育委員会、関東高等学校演劇研究会で優秀賞などを受賞して注目され出版に至ったという話題の作品です。
星海社のサイト「最前線」で無期限無料で表題作全文を掲載、ウェブ上で読んでみました。
物語はいくつかの設定が入れ子に絡み合って進みます。
六本木で出会う家出少女と不登校少年、両親不在の姉弟、想像妊娠する少女と家族など、くるくると場面転換しながら、それぞれの関連が明らかになってきます。
適度なギャグや、いまどきな会話、テンポの早い展開など、笑いの要素がふんだんにありながら、家族、身体、性などに関わる若者の深刻な悩みも徐々に浮き彫りになっていく、その“物語感”とでもいうようなものに、正直圧倒されました。
ここ何年間か高校演劇を見る機会があり、上手いとか、いい作品というのもあったもののやはり「高校生の演劇」という枠をまず感じる気がします。しかしこの作品はそういった括りの一切ない、突き抜け感がありました。これを高校生3人でどう演じたのか、見てみたかったですねー。
朝日新聞のインタビューで「自分のいるところだけを世界だと思っている人に、違う見方を提示したい」「同世代に読んでほしい」と著者が語るように、上の世代が面白がるより、ティーンズが読む機会ができるといいな、と思います。
(神谷巻尾)
『六本木少女地獄』
原くくる/著 竹/イラスト
星海社 2011年8月
水
14
9月
2011
トワイライト1 愛した人はヴァンパイア
前回ニャン左衛門さんが「スカイエマさんの挿絵作品から探した」と書いていたので、挿絵切りで読んでみた本を選んでみました。表紙、挿絵がゴツボ×リュウジさんイラストの『トワイライト』です。
ゴツボ×リュウジさんは漫画家ですが、YA作品では伊藤たかみ『ぎぶそん』の表紙が印象的でした。児童書でも秋木真『ゴールライン』、はらだみずき「サッカーボーイズ」シリーズの角川つばさ文庫版など、よくみかけます。今の児童新書主流のラノベ風イラストよりはもう少しすっきりして青年漫画タッチの絵柄がシャープな印象です。『トワイライト』は単行本全13冊のイラストを手がけていますが、装丁含みかなりお洒落です。
さて、この小説は全世界で7000万部突破というヴァンパイア・ロマンス。「ハリー・ポッター」シリーズに次ぐ人気シリーズで、アメリカではティーンズの女の子に熱狂的に支持されているそうですが、日本ではそこまでではないでしょうか。しかし「転校してきた女子高生と、謎の美少年(しかも吸血鬼?)との恋」というのは期待するに十分な設定。現代的なアメリカの高校生ライフと、土地に根付く伝説や風習、超常現象などが混ざりあい、展開もミステリアスで新鮮に読めました。背景とストーリーに没頭してぐんぐん読む、というエンターテインメント小説の醍醐味を味わえそうです。
最近女の子が読む本は、身近だったり共感できる内容が人気のようですが、全く違う文化モノに手を出すきっかけとして、いいシリーズなのでは、と思います。自分の車で通学とか、ダンスパーティーの相手を女子から申し込むなどのも面白いですし、逆に恋愛のことばっかり考えているのは万国共通なんだな、とほほえましかったり。人間と吸血鬼のロマンスから始まる壮大なサーガ、というとファンタジー好き以外は手にとらないかもしれませんが、この表紙の印象で、かっこいい恋愛モノ、と思って読んでみるのもあながち間違いではない気がします。
(神谷巻尾)
『トワイライト1 愛した人はヴァンパイア』
ステファニー・メイヤー/著 小原亜美/訳 ゴツボ×リュウジ/イラスト
ソニー・マガジンズ 2005年8月
金
19
8月
2011
皿と紙ひこうき
第51回日本児童文学者協会賞受賞作品です。
著者の作品は初読ですが、『卵と小麦粉とそれからマドレーヌ』『レモン・ドロップス』などのタイトルから、若手の作家の方だと思っていました。そして、読み終わった後もそのイメージは変わらず。爽やかで、初々しい少女の物語だったからでしょうか。
九州の山奥、陶芸家の小さな集落で生まれ育った由香は、ずっと変わらない日々を家族と幸福に過ごしている。高校に入ってこれまでとは違う世界を知り、新たな人々と出会い、いろいろなことを考え、感じるようになる。そんなお話です。変わることのない皿と、飛んでいく紙ひこうき、タイトルも象徴的ですね。
あとがきで、舞台の大分県日田市はテレビCMで知り、その風景のなかで物語を書きたいと取材したとありました。土地の言葉や陶芸の作業のようす、街並などとても自然に描かれ、作者に縁のある土地なのかと思っていたのですが、そういわれてみれば、1日3本だけのバス、「皿山の子」という呼び名、家族の強い絆などの心温まる描写は、作者が心惹かれた風景だからこそ出来たお話なのかもしれません。
由香の親友、絵里の男子への憧れや、部活の先輩の少し大人びた姿、東京からの転校生伊藤卓也への視線など、この年頃の女の子なら誰でも、どの時代でもくすぐられるような要素がきれいに収められている印象です。少し余裕のあるとき、夏休みとかに、家や図書館でのんびり読むのにぴったりな気がします。
(神谷巻尾)
『皿と紙ひこうき』
石井睦美 講談社 2010年6月
月
25
7月
2011
ピアニッシシモ
講談社青い鳥文庫の中学生向け、「Yシリーズ」第一弾です。
人気のYA作家の作品を、イラスト入り、ルビ入りで青い鳥文庫にパッケージ、小学校高学年〜中学生の女の子が手に取りやすい装丁になっています。黒魔女さんや若おかみで青い鳥ファンになった女の子たちに、次に読んでもらいたいシリーズとして期待が感じられます。
本書は講談社児童文学新人賞でデビューした著者の2作目で、2003年に第33回児童文芸新人賞を受賞した作品です。
ごく普通の中学3年生松葉と、裕福で美人、ピアニストを目指す紗英、2人の少女はピアノが縁で出会い、お互い急速に惹かれあいます。接点のない2人ですが、それぞれ家庭環境に反発しています。松葉の両親は家族思いで明るい家庭を築いているようですが、父が食玩コレクター、母がブランドや流行りもの好きで、紗英の家は母も祖母も叔母も男運が悪く女系家族で暮らし、紗英のピアノに過度の期待を抱いています。大人たちの自己中心的な言動がこれでもかと描かれ、大人の読者としては肩身が狭い思いです。
他にも学校の先生や芸術家気取りの若者など、身勝手な大人が登場し、中学生は傷つけられます。嫌な大人やいじめなどのテーマって、実際のところティーンズ読者はどんなふうに受け止めるのかな、と思い中学生の娘に聞いたところ「ただ面白いだけなんじゃ?」とのこと。意外と淡々と読んでいるのでしょうか。
物語は、紗英の恋愛を機に、松葉自身の行動も変化し、それぞれに家庭や学校と折り合いをつけていきます。成功や感動といった単純な結末ではなく、葛藤もあり読者自身の読み方も問われるような終盤は、それまでの青い鳥読者には初めての体験かもしれず、読書の幅が広がっていくのではないでしょうか。
(神谷巻尾)
『ピアニッシシモ』
梨屋アリエ 講談社青い鳥文庫 2011年6月(初版2003年)
月
11
7月
2011
ラスト ラン
『魔女の宅急便』の角野栄子は、今年作家デビュー40周年とのこと。本書は著者の自伝的小説で、初の一般書とのことです。
ただし“ノンフィクション・ファンタジー”とあるように、印象としては『魔女宅』のようなファンタジー児童書。著者の回顧的なお話かという予想の枠を大きく超えた、読み応えある作品でした。
主人公のイコさんは、ファッションデザイナーを引退した74歳の独身女性。残された時間に何かやろうとバイクを購入、幼い頃死別した母親の写真を思い出し、母の生家に旅することにします。たどり着いたその家は、空き家のはずなのに、12歳のふーちゃんと名乗る女の子が。しかも他の人には見えないのに、イコさんだけには見える。「行っちゃ、やだ」というふーちゃんを残しておけず、バイクに乗せて、ふたりのツーリングが始まります。
みずから「ゆうれいなの」というふーちゃんは、当時お気に入りのワンピースを着て当時の世界にいるかと思えば、今どきの女子高校生の言葉づかいを覚えていたり、将来自分が成長した時の記憶も断片的に出てくるなど、あの世に行けず中途半端なところに存在しているというかんじが伝わってきます。
ふーちゃんや旅の途中で出会うゆうれいたちと接するイコさんが、困惑したりぼやいたりしながら、現実とあちらの世界とをバランスをとる姿もなんとも楽しい。冒頭からテンポよく物語が進み、しかも予想の枠を超える展開がいくつもあり、最後まで引き込まれます。
著者インタビューで「12歳から74歳まで読んでほしい」と語られていましたが、どの世代も、特に女子にはツボのポイントがありそう。もっと下の、小学生でも十分楽しめそうです。装画が「サマー・ウォーズ」のコミカライズを手がけた杉基イクラ。長編アニメを予感させるような表紙です。
(神谷巻尾)
『ラスト ラン』
角野栄子(カドカワ銀のさじシリーズ)2011年1月
月
27
6月
2011
「YA*cafe」に参加しました
作家の梨屋アリエさんが主宰する読書会「YA*cafe」に参加してきました。
YA*cafeは、“YA作品を読む人、YA作品を知りたい人が、誰でも参加できる読書会”として2010年12月にスタート。2ヶ月に1回テーマの本を読んで集まり、感想を話しあったり、おすすめのYA作品を紹介するという会です。面白そう!と思いつつタイミングを逃していましたが、4回目にしてようやく参加することができました。
今回のテーマ本は、ドイツの作家、グードルン・パウゼヴァングの『みえない雲』。
ドイツの原子力発電所で爆発事故が発生、弟と2人家に残された14歳の少女の、過酷な避難生活を描いた作品です。
チェルノブイリ原発事故翌年に発表され、ドイツ児童文学賞も受賞したこの作品は、日本でも児童書として刊行されました。本国では教材として使われたり、コミック版も出るなど20年以上読み継がれては、2006年に映画化、日本での公開に併せて文庫版が出ました。そして今回の大震災と福島第一原発事故を受け、あらたに訳者あとがきが加筆された文庫が6月に刊行しています。
帯に「3.11以降の日本、いまこそ読みたいこの1冊」とありましたが、読後確かに実感しました。放射能の恐怖にパニックに陥る人々、錯綜する情報、被爆の影響などこの作品で描かれる世界はかなりショッキングで、原発事故の影響下にある今、胸に迫るものがあります。参加者のあいだでも、自然と今回の事故や原子力発電について、電力需要と経済発展について、と会話が発展していきました。内容についても、主人公のヤンナ–ベルタの感情の起伏や、とりまく大人たちが象徴するものについてなど、みなさん丹念に読み込まれていて、勉強になりました。
読書会というものの自体初体験でしたが、なかなか手に取ることのない本に出会う、という楽しみを味わえました。高校生から60代と、幅広い年代の方と同じ本を通して話し合うというのも新鮮でした。今回の関連書籍や、最近読んだおすすめの本、今後取り上げたい本についても盛り上がり、こちらも参考になりました。teensbooksでも紹介していければと思います。梨屋さん、参加のみなさん、ありがとうございました!
次回は10月30日とのこと。興味ある方は、ぜひどうぞ!
(神谷巻尾)
金
17
6月
2011
しあわせは子猫のかたち
角川つばさ文庫版、乙一作品です。2000年に角川スニーカー文庫『失踪HOLIDAY』に収録の形で発表、つばさ文庫では同じ2作品を、表題作を変えて刊行となっています。
「しあわせは子猫のかたち」は、孤独に生きる大学生が、引っ越し先で先住者の幽霊と、彼女が残した子猫と暮らしながら、しだいに心を開いていく、というお話。過去の事件やミステリー、人との交流など、60ページ程度の短編にさまざまな要素が入り、しかもユーモアもありつつ、感動も覚えます。(黒い方じゃない)乙一の魅力が凝縮して、まさしく良作です。
そう考えると、わざわざこの短編を表題作にしてつばさ文庫レーベルから刊行したのもうなずけます。
表紙も、水彩画タッチの女の子から、ラノベ挿画風のメガネ男子となり、小中学生の女の子たちがいかにも手に取りやすい。読めば面白いに決まっているので、そこから乙一ワールドに入っていく子が増えれば、つばさ文庫の作戦勝ちといえるでしょう。
「失踪ホリデイ」(タイトル変更)の方も、コメディタッチのミステリー、謎解き部分も読み応えがあり、児童書新書読みの女の子たちが気に入りそうです。
実は、つばさ文庫初挑戦でしたが、うまいなあ色々な意味で、というのが実感でした。
(神谷巻尾)
『しあわせは子猫のかたち』
乙一(角川つばさ文庫)2011年2月
金
13
5月
2011
GOSICK
人気作家桜庭一樹の、ティーンズ世代向けのライトノベルです。
富士見ミステリー文庫から2003年に刊行され、その後レーベルがなくなり角川ビーンズ文庫、角川文庫で復活、シリーズ新刊も続き、2011年1月からアニメも始まり今また大注目の模様。中学生にも人気、と聞き読んでみたら、面白い!桜庭作品ですからそりゃ当然ですね。でも、若い世代向けの小説として、今受入れられる要素がもれなく詰まっていると感じました。
第二次大戦前、西欧の架空の王国を舞台に、図書館塔最上階に鎮座する頭脳明晰な美少女と、日本からの素朴な留学生男子のコンビが、不思議な事件の謎を解くミステリー、という設定が秀逸です。歴史、学園、天才、美少女、オカルト、ミステリーなど、誰もがどこかしらにひっかかるものがありそうです。
キャラクターや会話はラノベ風、ミステリーはオーソドックスで古典的、近代西欧の学園生活や街の情景を愛でる楽しみもあり、これから読書の幅を広げていく中高生にうってつけではないでしょうか。イラストの入らない角川文庫版に、もとからのライトノベルファンは抵抗があるようですが、逆にラノベ読みではない、もっと低年齢層や女の子にも間口が広がっていくのでは、と期待します。
(神谷巻尾)
『GOSICK ―ゴシック―』桜庭一樹
(角川文庫、角川ビーンズ文庫など)初版2003年
水
19
1月
2011
一億百万光年先に住むウサギ
新年最初のレビューです。今年は卯年、ということで「ウサギ」が出てくる小説にしてみました。昨年残念なことになってしまった理論社の、YA単行本です。
主人公は中学3年生の翔太。親の事情で移り住んだ湘南の地で、友人や回りの大人たちとのさまざまな交流や恋愛をとおして、成長してゆく青春小説です。冒頭、恋が実る伝説や洋館に住む老教授などロマンチックな設定で始まります。不思議なウサギが登場したりして、これはSF? と思うと、友人が巻き込まれた盗難騒動の犯人探しといったミステリーもあり、後半は失踪事件もからむラブストーリーになり、となかなか盛りだくさんです。
とはいえそんな慌ただしさはなく、むしろゆったり時間が流れていて、少し前の時代の話?と思わせるような雰囲気です。横浜、鎌倉、江の電沿線など湘南特有の地域感がただよい、親世代からの付き合いや古くからの顔なじみ、ジャズが流れる喫茶店など、作者が気持ちよく書いているような印象を受けます。
タイトルの「一億百万光年先に住むウサギ」は、親世代が高校生だった時に作ったという童話作品。この逸話が全編を通して顔を出しています。宇宙から来たウサギが、恋をかなえるために星を磨く、というなかなかかわいらしいお話なのですが、なんとこの話がスピンアウトして絵本になっていました。
これも合わせて読んでみたいですね。
(神谷巻尾)
『一億百万光年先に住むウサギ』
那須田 淳 (理論社 2006年)
『星磨きウサギ』
那須田淳/著 吉田稔美/絵 (理論社 2007年)
月
27
12月
2010
【特集:今年のベスト本】『希望(ホープ)のいる町』
今年いちばんを選ぶために、年末かけこみで気になっていた児童書/YAを読みあさった、という本末転倒ぶりでしたが、はからずも号泣してしまったのがこちらでした。作品社の新しいシリーズ、金原瑞人選「オールタイムベストYA」の1冊です。
「ホープ」は高校生の女の子。産んですぐ姉に預けて出て行ってしまった母親がつけた名前を捨て、自分で付けた名前です。名コックのおばと一緒にウエイトレスとして働き全米各地を転々とするホープがたどり着いた店のオーナーは、町の汚職事件を追及するために病気を持ちながら町長選に立候補することに。
複雑な生い立ち、選挙活動、不正や犯罪など、高校生にとっては過酷といえる環境を背景にしているのですが、決して悲劇にも、感動を誘う材料にもしていません。レストランが舞台だけに、料理や、厨房、給仕の仕事が生き生きと描かれていて、「希望」を感じさせます。働きながら、新しい環境にも小さな町にも溶け込んで暮らすホープに惹かれ、すっかり感情移入していました。子どもの頃、海外児童文学を読んだ時に感じたのは、こんな新鮮な驚きだったかも、と思い出しました。
今の日本の中高生が共感するのはリアルな日常を描いた作品が主流でしょうが、不幸や病気がテーマでも、こんな味わいの作品もあるというのを知ってもらえれば、と思いました。
(神谷巻尾)
『希望(ホープ)のいる町』
ジョーン・バウアー作 中田香・訳(作品社)2010年3月
月
20
12月
2010
【特集:今年のベスト本】『どろんころんど』
振り返ってみると今年は「アリス」が元気な年でした。ティム・バートン監督による映画『アリス・イン・ワンダーランド』の公開は記憶に新しいです。さらに角川つばさ文庫では、新訳版『ふしぎの国のアリス』『かがみの国のアリス』が刊行されました。つばさ文庫版アリスは、河合祥一郎が原著の言葉遊びを日本語に巧みに取り込み、okamaがかわいらしいイラストで物語に華を添えた、非常に楽しい本になっています。
そんな中、和製アリスの決定版ともいうべき作品が登場しました。福音館書店のSFレーベル「ボクラノSF」初の書き下ろし作品として発表された『どろんころんど』です。今年の日本SF大賞の候補にもなり、高い評価を受けています。
物語の内容は「アリス・イン・どろんこワールド」です。この作品の「アリス」は、少女型のロボットです。彼女の使命はカメ型の子守りロボット(レプリカのカメで「レプリカメ」)の万年1号の宣伝ショーをすることでした。ところが長い休止モードから目覚めた彼女が外に出てみると、なぜか人間はどこにもおらず、世界は泥の海になっていました。人間がいないことにはアリスは自分の使命を果たすことができません。アリスは人間を探すため、万年1号とともに泥だらけの世界で冒険を繰り広げます。
どろんこワールドでどんな奇想天外な冒険が展開されるかについては、読んでのお楽しみということで詳しくは語りません。しかし、早くも10年代を代表するSF児童文学の傑作が登場したということだけは断言できます。
(yamada5)
『どろんころんど』
北野勇作・作 鈴木志保・画(福音館書店)2010年8月
月
11
10月
2010
アナザー修学旅行
第50回講談社児童文学新人賞受賞作品です。授賞は昨年ですが、今年6月に単行本として刊行されています。
中学生活最大のイベント修学旅行に、さまざまな事情で参加できなかった6人が、学校に残って同じ教室で過ごす3日間の話です。そうか、宿泊行事を休むと学校に通うのか。人生でたった一度の修学旅行に行けず、見慣れないメンバーで教室にいるという状況、すごい萎えるだろうなあ。と、いやおうなしにお話にひきこまれる、絶妙な設定ですね。
物語は、足の骨折で不参加になった佐和子の視点で進みます。
佐和子は友達も多く、周りとの関係を何より気にかける、ごくフツーの今どきの中学生。だから、知らない子たちと一つの教室にいて、誰よりも気まずく、席の位置や、他人の会話にやけに敏感です。自分がどう見られてるかも気になってトイレで長々鏡を見てしまうとか、まだ友だちじゃないから下の名前で呼べない、とか、細かいところがいちいちリアル。これは同世代の子が読んだら楽しいでしょうね。「もう、ぞくぞくするくらい中学生なわけ。話すことも、話す言葉も、話し方も、考え方も、行動も……ぜんぶ!」と、金原瑞人氏も絶賛だそうです。
留守番になったのにはそれぞれ理由があり、その事情と絡みながら6人(実は途中からもう1人増えます!)は少しずつ打ち解けていきます。人の少ない学校で、イタズラしたり、賭けをしたり、大胆なことしてみたり、いつもと違うことをしてはじけていく様子がさわやかです。
登場人物が、不良(だけど秀才)、美少女、芸能人、あるいは恵まれない境遇にいる、など,揃い過ぎという気もしますが、フツーの子の視線で語られているので、意外とすんなり入り込めます。
突出したことより、普通がすごく楽しいのが、中学時代なんだな、と思い出しました。
(神谷巻尾)
『アナザー修学旅行』
有沢佳映著 講談社 2010年6月
月
16
8月
2010
園芸少年
今年度、第50回日本児童文学者協会賞受賞作品です。
高校に入学したばかりの男子3人が、成り行きで廃部寸前の園芸部に入り、花壇の世話をしながら成長してゆく、という部活小説です。
主人公の3人、学校に期待せずそつなく過ごそうとする篠崎、不良あがりの大和田、保健室登校の庄司は、それぞれ全く違うバックグランドを持っています。それが園芸を通してお互い理解しあい、前向きになっていく姿はさわやかで、素直に好感が持てます。
部活を通して成長する、いわゆる部活小説/漫画は最近大変多いですよね。人間関係や競技の描写など、魅力的なテーマがたくさんあるし、マイナースポーツや文化部などこれまで注目されてこなかった部活作品もたくさん出てきて、面白いものが多いと思います。
特にマイナー部活ものは、マイナーならではの、青春!熱血!ではない、淡々とした日常やごくふつうの中高生の姿が感じられる作品が多いような気がします。
この作品も、園芸という地道で静かな活動が舞台だし、主人公たちは周りから浮いてたり、目立たない子たち。学校の中心にはなりえない場所、子どもが、土をおこし、種をまき、水やりをする、という一連の流れととも彼らの日々の小さな変化も、自然と見えてきて、共感できます。
いじめ、友人関係の悩みなど、思春期ならではテーマもあるけれど、深刻になったり妙に盛り上げたりしないところもいいです。
夏休みに合宿だ、とはりきって出かけたものの、目的地の公園がしまっていたり、キャンプに飽きて24時間営業の食堂で一夜を過ごす、という展開、むしろ青春!とニヤリとしました。
今見たら、昨年8月刊行の本なんですね。確かに高校1年の夏に読むと、ちょっと元気がでそうな本かもしれません。
(神谷巻尾)
『園芸少年』
魚住直子(講談社) 2009年8月
木
27
5月
2010
妖怪アパートの幽雅な日常
Q&Aサイトなどで「オススメの本はないですか?」という質問を見るたびに、まっさきに紹介しているYAです。レーベルの対象は中高生ですが、大人が読んでも小学生が読んでも楽しめる作品だと思っています。
主人公は1巻の時点で高校に進学したばかりの男子高校生・稲葉夕士。ひょんなことから「妖怪アパート」と呼ばれているあやしげなアパートで生活をすることになる。
このアパートの住人は一癖も二癖もあるような人間とか・・・妖怪など。夕士の常識はあっという間に木っ端微塵。
妖怪アパートという題名や、実際に妖怪やら幽霊やらが登場するけれど、決しておどろお
どろしいホラーファンタジーというわけではない。どちらかというと人情モノ? 明るく楽しい青春小説だと思います。
たくさんの登場人物も個性的で魅力的。
水
26
5月
2010
穴-HOLES-
最初なので、私の一番好きな本をご紹介します。
災難にもいろいろありますが
「まずいときにまずいところにいたために災難にあう」
コレ、なかなか最悪では?と思います。
あなたならそんなときどうしますか?
「あんぽんたんのへっぽこりんの豚泥棒のひいひいじいさんのせいだ!」
というジョークを言う
のがスタンリー・イェルナッツの家で代々続いているんです。
彼は4世だからこのジョークはすくなくとも4代続いたジョークなわけ。
しかし、そんな言い訳も通用しないほど
スタンリーの現在の状況は極めつけにマズイ。
有名な野球選手のスニーカーを盗んだという無実の罪で
刑務所の代わりにグリーン・レイク・キャンプに行くことになっちゃった。
グリーン・レイク・キャンプってなに?
悪いことをした少年たちがいくキャンプ。
いったいなにをするところ?
毎日ひとつずつ、穴をほるのさ。
雨が降ったことがない硬い地面に
ひとりがひとつずつ。それが毎日のノルマ。
人里離れていて
毎日天気はカラカラで
黄斑トカゲなんていうサソリなんか目じゃない猛毒持ちの生き物がいる。
一緒に過ごす少年たちは…
ここが刑務所よりはいいから来てる、なんてとこにいるんだもの
言うまでもないよね★
そんなグリーン・レイク・キャンプ。
そこでスタンリーが過ごした間の物語。
文章はわりにシンプルだけど味があるうえキレがいい。
要素も成長あり、友情あり、ラブストーリーあり、サスペンスありとてんこもり。
メインストーリーの間にちらばっているサイドストーリーは
面白いけれど一見関係なさそうにみえる。
でも、それが最後に近づくにつれて
ジグソーパズルのようにどんどんはまっていく快感。
そりゃもう、一気読みするしかないでしょ。
こんなオトクな要素たっぷりの本が面白くないわけがない!
ということで、出版当初は児童書でしたが
現在は講談社から文庫になって出ています。
これから来る暑い季節に
冷たいモノをそばに置いて読むもよし
いろいろガマンして暑いまま
グリーン・レイク・キャンプ風の環境で読むもよし。
小学校高学年くらいから大人まで
男女問わず楽しめる1冊ですので
ぜひ、お手元にどうぞ!
(しろいまちこ)

