火
15
11月
2011
初恋素描帖
雑誌『セブンティーン』を見ていたら、ブックコーナーに紹介されていた『初恋素描帖』。3冊のおすすめ本はコミック、イラスト集とこの本で、小説はこれだけ。女の子が読みたそうな小説って数少ないんだなとあらためて思います。
この本は2008年に単行本で刊行、この夏に文庫化されました。どちらも「ソラニン」の浅野いにおがカバーイラストを手がけていますが、文庫はより漫画タッチになっていて、今風です。中にも登場キャラクターや恋の相関図の浅野イラストがあって楽しめます。
登場するのは中学2年生で、テーマは初恋。今の子にも入りやすい装丁で、まさにリアル中学生向けの本にも見えますが、子ども向けとして書かれた作品ではありません。中学2年の1クラス、20人の恋愛がそれぞれの一人称で語られ、クラスの人間関係や心の中の葛藤など、きれいばかりじゃないものが徐々に見えてくる、深い味わいがあります。
著者が文庫あとがきで中学時代の“特別さ”を書いていますが、その思いをあたため描かれた作品なので、大人にも共鳴するのではと思います。
でも主人公中心の友情や恋愛だけではなく、目立ない子も嫌いな子も、クラスすべての子が等しく描かれている小説というのは、ティーンズには意外と新鮮かもしれません。『セブンティーン』評の「同クラの話したことないあのコも、こんな恋をしてるのかなぁって思うと、親近感わいてくるよね」は、まさにそのとおり。本好きな子もそうじゃない子も、何かしら感じる作品だと感じます。
(makio)
豊島ミホ著 メディアファクトリー 2011年8月(文庫版)
日
30
10月
2011
舟を編む
この本の話をしていたら中学生の子どもが「それ、先生が授業中話してた」と言っていました。辞書をつくる編集部の話は、確かに大人よりもずっと辞書をひく機会の多い中高生にもリアルに面白いかもしれません。
出版社の中では地味な存在の辞書編集部、定年間近の老編集者が後継者として迎え入れたのが、営業部で持て余されていた馬締(まじめ)光也。
言葉への独特な情熱を持つまじめのオタクぶりや、日々の生活、時代がかった恋愛の顛末もおもしろいのですが、彼の存在が編集部に、また辞書そのものに新しい風を吹き込んでいくさまに惹かれます。
辞書に興味のないチャラ男の西岡、ファッション誌から異動になった岸辺、それぞれがまじめとは違う視点で言葉をとらえ、それがまじめ曰く「血の通った辞書」にするのに役立っていく場面にぐっと来ました。
冒頭の先生が話していたというのもそのあたりで、「愛」という単語の例に「愛妻。愛人。愛猫。」というのはまずい、と岸辺が指摘するところ。先生、いいセンスです(笑)。
用語採集カード、執筆者への依頼、用紙の開発など、辞書を作る過程そのものも興味深い。辞書にあとがきがあり、謝辞があるということにはじめて気づきました。装丁は渋いですが、帯、表紙に描かれた漫画風イラストが、若い読者も呼んでいるようです。
(makio)
『舟を編む』
三浦しをん/著 光文社 2011年9月
土
24
9月
2011
六本木少女地獄
現役女子高校生による、戯曲集です。
著者の原くくるは高校中退後、チャレンジスクールである都立六本木高校に入学して3人しかいない演劇部に入部。表題作の脚本、演出、出演をつとめ、都演劇コンクールで教育委員会、関東高等学校演劇研究会で優秀賞などを受賞して注目され出版に至ったという話題の作品です。
星海社のサイト「最前線」で無期限無料で表題作全文を掲載、ウェブ上で読んでみました。
物語はいくつかの設定が入れ子に絡み合って進みます。
六本木で出会う家出少女と不登校少年、両親不在の姉弟、想像妊娠する少女と家族など、くるくると場面転換しながら、それぞれの関連が明らかになってきます。
適度なギャグや、いまどきな会話、テンポの早い展開など、笑いの要素がふんだんにありながら、家族、身体、性などに関わる若者の深刻な悩みも徐々に浮き彫りになっていく、その“物語感”とでもいうようなものに、正直圧倒されました。
ここ何年間か高校演劇を見る機会があり、上手いとか、いい作品というのもあったもののやはり「高校生の演劇」という枠をまず感じる気がします。しかしこの作品はそういった括りの一切ない、突き抜け感がありました。これを高校生3人でどう演じたのか、見てみたかったですねー。
朝日新聞のインタビューで「自分のいるところだけを世界だと思っている人に、違う見方を提示したい」「同世代に読んでほしい」と著者が語るように、上の世代が面白がるより、ティーンズが読む機会ができるといいな、と思います。
(神谷巻尾)
『六本木少女地獄』
原くくる/著 竹/イラスト
星海社 2011年8月
日
31
7月
2011
円卓
大家族に愛され、裕福ではないけれど幸福に暮らす小学3年生の琴子(こっこ)は、その凡庸さを毛嫌いし、8歳にして好きな言葉が「孤独」。複雑な境遇の同級生に憧れ、気になる言葉を自由帳に書き付け、不満や疑問を抱えながらも奔放にふるまうこっこのほほえましい物語、として前半は進んでいきます。関西弁のしょうもない会話と、こっこの心のモヤモヤがいい具合にバランスよく、笑えます。
このまま「いいお話」で終わるかと思いきや、中盤から趣が変わります。悩みや憧れが自分の頭の中だけで完結していたこっこが、ある出来事に遭遇し、初めての感情を実感として知ることになります。少々不穏な描写もありますが、そのカタルシスが清々しく、他者との新たな関わりにつながるラストは感動的でした。
「こっこは小三だけど中二病」と評していたレビューがありましたが、確かに。著者ブログで「小学三年生を経験したすべての方に」読んでほしい、とありましたが、つい最近まで小学生だった中二あたりにこそ、すすめてみたい気がします。
(神谷巻尾)
『円卓』
西加奈子 文藝春秋 2011年3月
水
01
6月
2011
それでも、日本人は「戦争」を選んだ
学生の時から、日清戦争から始まる近現代史って、好きになれませんでした。
五味川純平さん原作の一連の反戦ドラマ(「戦争と人間」「人間の條件」…)で庶民が理不尽な目に遭うのを見させられたり、戦前の日本女性の地位の低くさに嫌気がさしたり、「自虐史観」を嫌うネオコン系の首長によって「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書が公立学校に採択され、イデオロギーが教育の場に持ち込まれてしまうことに憤ったりと、理由はいろいろあります。
なら、なぜ本書を読んでみようと思ったのでしょうか。東日本大震災で福島原発事故が起こった今の日本の状況が「戦前と全く変わっていない」と、多くの人が指摘したからです。国策で原子力開発が進められ、地方の貧しい人々が犠牲になり、逆らう学者や知事は抹殺され、行政と電力会社は記者クラブ等を通じてテレビ・新聞の言論を統制し、事故後も国民には情報が隠され、多くの人(特に子どもたち)が被爆し、外国からの情報に頼らざるを得ない始末。十分な安全対策を取ってこなくても「想定外」と言えば許され、事故のツケは国民に回される……。日本の指導者たちが政策の責任を取らないのは、戦前と同じ原因なのか? 近現代史を振り返るのは気が重いけれど、その理由を知りたいと思ったからなのです。
しかし読んでみると、とても楽しいのでビックリしました。近現代史の本なのに!
その大きな理由は本書が「高校生を相手に討論形式で行われた授業の再録」だからでしょう。学校で教わる倫理や哲学がつまらなかった人も、サンデル教授の白熱教室は面白く見たという人が多かったのではないでしょうか。
さすがハーバードの大学生、堂々と自分の意見を言う姿に圧倒されましたが、本書も負けてません。神奈川県で最も偏差値が高く、東大合格者数が多い中高一貫校の私立栄光学園の、しかも歴史クラブ部員!
「華夷秩序って、どういうものかわかりますか。
——朝貢貿易と同じ?
ああ、だいたいわかっていますね」
「中国側が強かった理由は、もちろん、31年の満州事変以来、日本側のやり方に我慢がならなかったという抗日意識の高まりがまずはあります。それ以外の点でなにがあったかということ、覚えていますか。4章の最後のほうです。ある国が中国を一時支える、とお話しましたけれども。
——ドイツ?
そうです。ドイツは40年9月27日、日本と三国同盟を調印することになる国ですが、38年5月12日に満州国を承認して明確に日本側と手を組むまでは、中国側に最も大量の武器を売り込んでいた国でした」
「それでは、(日清戦争後)国内の政治においてはなにが最も変わったでしょうか。論述ですと、だいたい10文字くらいになるのですが。(中略)
——普通選挙とかそういう……。
そうそう、鋭い。そうなんです。(中略)それではなぜ、中村太八郎や木下尚江は突然、普通選挙が必要だ!と自覚するのでしょうか。(中略)
——三国干渉を受けて(遼東半島を)返してしまった頼りない政府に対して、民意が反映されていないと感じた。
はい、今のが正解です」
教える先生も相当な歴史オタクですが生徒も負けていない。東大教授だろうが山川の教科書を執筆していようが、臆することがない。著者はこの講座をリンカーンのゲチスバーグの演説をもじって「歴史好きのための特別講座」と名づけるのですが、「歴史好きな教師と生徒」の熱気が読んでいてとっても気持が良いのです。
本書が面白い理由はそれだけではありません。
著者はなんと「歴史は科学だ」と教えます。
桜蔭学園というこれまた偏差値の高い女子校出身の著者は、歴史好きゆえに同級生からバカにされたそうです。「歴史は暗記ものだから、覚えてしまえば、なにも考えなくても点数がくる科目だから」と。物理部にも所属していた科学にも明るい著者はさぞ悔しい思いをしたに違いありません。歴史が科学であることを、この授業で存分に証明してみせます。
歴史は一回しか起こらない特殊な事項を扱うので、法則性を見いだせないと思われがちですが、「歴史家は過去のできごとの中から一般性を探す」、「歴史上の人物や事件は、その次に起こる事件に影響を与える」と言い、具体例を挙げます。
ロシア革命を担った人々は、戦争の天才、ナポレオンがフランス革命を変質させてしまったと考え、天才トロツキーではなく、田舎者のスターリンのほうが安全だと思い、レーニンの後継者に選びますが、結果、数百万人が粛清されてしまう。また、アメリカは長らくベトナム戦争の泥沼から抜け出せませんでしたが、それは第二次世界大戦で巨額な対中援助を行ったのに中国が共産化してしまったのを指をくわえて見過ごした痛い経験があったから。
そして太平洋戦争時の日本政府も例外ではありません。戦国時代の超有名な2つの戦いがトップの判断を狂わせてしまいました。そんなバカな! と思うでしょう? でも現に昭和天皇は、近衛文麿首相、杉山元参謀総長、永野修身軍令部総長や、山本五十六連合艦隊司令長官にこの史実を引き合いに出され、説得されてしまったのですよ。どの事件か知りたい人は是非、この本を読んでみてくださいね。
木
30
9月
2010
アンナの土星
著者の益田ミリさんはイラストレーターさんだそうです。すみません、ワタシ実はこの方漫画家さんだと思ってました…。「すーちゃん」で初めて知った方だったので。エッセイも読んでます。好きなんですよ。で、この本は初小説だというので、これは読まなきゃと。
楽天ブックス【内容情報】(「BOOK」データベースより)お兄ちゃんの笑い声が好きだった。お兄ちゃんの笑い声を単語にするならば「真実」だと思う。嘘のない、やわらかな笑い声だった。14歳のアンナは、両親と大学生のお兄ちゃんとの4人家族。アンナは、毎晩のように屋上の望遠鏡で星を見ているお兄ちゃんから、宇宙の話を聞くのが好きだった…。みずみずしい痛みと喜び、不安と成長、地上と星空。14歳だった全ての人に贈る青春小説。
なんか上の内容読むと、お兄ちゃんがいなくなったり死んじゃったりする話じゃないか?とか思っちゃいませんか?(私だけ?)大丈夫、お兄ちゃん ちゃんと生きてます(笑)。
アンナはフツーの中学生です。学校は窮屈だけど、仲のいい友達がいる。バスケット部。お兄ちゃんとはけっこう仲がいいほう。スカートはちょっと短めにしてるけど、3年生ににらまれない程度に気をつけてる。
そうそう、中学って先輩・後輩っていうのが強いしいろいろきゅうくつなんだっけって思いだします。友だちや部活や、とにかく人間関係いろいろ。自分が繊細だし、距離もそうとう近いからね〜と今なら余裕があるから言えるけど当時はもういっぱいいっぱい。元気なんだけど、その行き場が身近すぎておぼれそうな感じ。
でもだからってつらいだけじゃなくってその中にあるちっちゃな楽しいことや面白いこともちゃんと味わってる。
そんな毎日の中天文オタクで理系の学校に行ってるお兄ちゃんは宇宙の話を日常会話でしていてなんとなく息がつけるようなことを話してくれたりしています。
初夏も秋も冬も春休みもそんなふうにして過ぎていって他の家族は知らないんだけどアンナは推測しています。たぶんお兄ちゃん、彼女できたなって。アンナのスルドイ視線は、お兄ちゃんにもちゃんと向いていたのでした。
アンナというか、著者のミリさんの視点は「女の子」です。気にしなければ見逃しちゃうようなちょっとしたところを拾ってちょっとシニカルででも、いいところだってしっかり見ています。
ミリさんの言葉づかいって特徴があって、それはアンナの口調になっていてもしかするとそれが気になる、って人もいるかもしれませんが今回はうまくマッチしてるんじゃないかな。
日常というミクロと星というマクロがうまく組み合わされている14歳の日常の物語です。
(しろいまちこ)
『アンナの土星』
益田ミリ メディアファクトリー 2009年
水
15
9月
2010
芋粥
今、アイスバーが食べたいとは思いませんか? ソーダ味で、中にラムネが入っているようなやつが。
もし食べたいと思ったのなら、今すぐ、それが無理でも今日中にはコンビニへ買いに行くことをおすすめします。長い間の夢が叶うのが必ずしも幸せだとは限りませんから。
ぼくがおすすめする芥川龍之介『芋粥』という話は、そんな話です。
平安時代のとある侍が主人公なのですが、彼は貧弱な性格と見た目から仲間たちからバカにされています。そんな仲間からの嫌がらせにただおどおどしている彼にも、一つだけどうしても叶えたい夢がありました。
それは、芋粥をお腹いっぱい食べてみたいというものです。芋粥というのは山芋を甘く煮たもので、当時では貴重なものだったため、主人公のような対してくらいの高くない侍には、ほとんど口にすることが出来ないものでした。
しかしある日ひょんなことからその夢が実現してしまいます。けれど結末は、決して幸せなものではなかったのです。
この話はあまり長くなく、主人公の気持ちにも共感しやすくて、とても読みやすい作品です。軽い気持ちで読んでみてください。きっと心に残る話になると思います。
(小林兆太/中三)
「芋粥」芥川龍之介 1916年
『羅生門 鼻 芋粥 偸盗』所収(岩波文庫)

