児童書レビュー
月
23
4月
2012
クレヨン王国の十二か月
シルバー王妃は、それぞれの町で散らかし癖・偏食・自慢屋という数々の自身の欠点と向き合っていくのでした。十二ヶ月に渡る旅を通じ、お妃にふさわしい品格を備えることが出来たシルバー王妃は、再会したゴールデン国王の心を取り戻すことが出来たのでした。
火
10
4月
2012
ピース・ヴィレッジ
主人公は、米軍基地のある町に住む小学6年生の楓。アメリカ人兵士やインド人の店員など外国人がまわりにたくさんいて、お父さんが経営するスナックも米軍相手の店。お母さんの妹は料理家らしいけれど、ふらっとどこかへ出て行って帰ってきません。親友紀理ちゃんのお父さんは活動家で、一人反戦のビラを撒いていて、入院したお父さんの代わりに、中1の紀理ちゃんもビラ配りをするといいます。
楓はテレビの戦争の場面が怖くて夢にまで出てきて、いつ起こるかと思うと不安で仕方がないのですが、お母さんには「起きやしないって」といなされます。
月
12
3月
2012
鉄のしぶきがはねる
第27回坪田譲治文学賞受賞作品です。
前回の受賞作、佐川光晴『おれのおばさん』は児童養護施設が舞台でしたが、今回は工業高に通う、学科唯一の女子高校生が主役です。
なじみのない世界の作品は、それだけで新鮮で珍しいものを読む楽しみもありますが、そういえば子ども時代に読む本は、ほとんどが知らない世界の話で、珍しさを楽しむ読み方は、児童書を読んでいる感覚に近いのかも、と思います。
さてお話は、工業高校機械科1年、部活もコンピュータ研究部という理系女子、三郷心を中心に進みます。心の家は、おじいちゃんが興した金属工業の工場だったけれど、ある事件から廃業。それ以来、旋盤技術よりコンピュータが進んでいる、と信じています。しかし学校の「ものづくり研究部」に誘われ、旋盤作業をするうち、職人技の魅力に目覚め、先輩や仲間との関わりを深め、やがてものづくりコンテストをめざします。
木
23
2月
2012
盗まれたおとぎ話
トムの冒険には、おとぎ話の登場人物が物語の鍵を握る存在として現れ、手助けをしてくれます。りんごを食べて眠ったまま目を覚まさない黒髪のお姫様を守る小人達や「ヘンゼルとグレーテル」から飛び出してきたお菓子の家が物語を彩ります。それらのおとぎ話をもう1度読み直してから、本書を再び手に取れば更にまた楽しめそうです。
金
06
1月
2012
アンネ・フランクをたずねて
隠れ家生活という辛い毎日を前向きに生きたアンネ・フランクという一人の少女を、ナチスの暗く、残酷な時代背景と共に追っていきます。要所に「アンネの日記」にある言葉を用いつつ、小川さんならではの女性らしい視点でアンネを分析しつつ話は進みます。
取材で訪れたゆかりの人々へのインタビューや、各所へ足を運び、生の空気を感じたからこそ出来る貴重なレポートは大変意義のあるものです。思わず顔を背けたくなるような歴史の惨状にも、決して目を背けずに受け止めるという著者の姿勢がとても印象的に描かれています。そして、読者もそれを史実として受け止め学ぶことによって、たくさんのことを本書は訴えかけてくれると思います。
水
28
12月
2011
【特集:2011年のベスト本】YA*cafeでおすすめされていた本-その2
引き続き、YA*cafeでみなさんがおすすめしていた本をご紹介します!
ロニー ショッター (著), 中村 悦子 (イラスト), 千葉 茂樹 (翻訳)
あすなろ書房 2004年
夜の闇からあらわれた黒人の一家。偶然目をさましたアマンダは、おとなたちの“秘密”を知ってしまう。いったいその秘密とは…。逃亡奴隷を助けた一家の物語。(「BOOK」データベースより)
月
26
12月
2011
【特集:2011年のベスト本】YA*cafeでおすすめされていた本-その1
以前参加した、YA作品の読書会「YA*cafe」。今回はおすすめのYA作品を1、2冊を持ち寄って集まるとのことで、行ってきました。新刊既刊、児童書一般書さまざまで、YAの入り口からみなさん面白い読書体験に広がっているんだな、と実感しましたよ!
参加したみなさんのおすすめ作品を、ランダムにご紹介していきます。
エリアセル・カンシーノ=著, 猫野ぺすか=イラスト, 宇野和美=訳 偕成社 2010年
つい、うそばかりついて、学校にも行かない少年ペリーコ、村にただひとりのイギリス人フォスターさん。ふたりの出会いは、ペリーコの世界を大きく変えていく。一九六〇年代スペイン、海辺の村を舞台にえがかれるだれもが共感する、みずみずしい成長の物語。スペイン実力派作家のアランダール賞受賞作。小学校高学年から。(「BOOK」データベースより)
金
23
12月
2011
怪物はささやく
この物語には二人の著者がいます。
2006年に『A Swift Pure Cry』で鮮烈なデビューを果たし、その後児童文学を4作残しながらも早世したシヴォーン・ダウド。彼女の原案をもとに、カーネギー賞受賞作家でもあるパトリック・ネスが彼女からバトンを引き継いで作品化しました。
物語はある夜、13歳の主人公コナーのもとにイチイの木の姿をした怪物が現れるところからはじまります。最初は“いつものおそろしい夢”だと思っていたコナーも、それがどうも今回は違うということに気づきます。怪物は「わたしが三つの物語を語り終えたら、今度はおまえが四つ目の物語をわたしに話すのだ。おまえはかならず話す…そのためにこのわたしを呼んだのだから」と言います。
主人公も読者も、この時点では怪物の言っている意味がよくわかりません。物語を語る?そこに一体どんな意図があるのか?しかし物語が進むにつれて、怪物の存在や語られる物語、“いつものおそろしい夢”の正体がおぼろげながら徐々に見えはじめてきます。
水
12
10月
2011
超絶不運少女1 ついてないにもほどがある!
今年5月にスタートした青い鳥文庫の新シリーズです。
作家名をどこかで見た気が、と思ったら、以前紹介した『ユリエルとグレン』の作者でした。
講談社児童文学新人賞佳作でデビューし、昨年児童文学者協会新人賞を受賞、いよいよ青い鳥デビューと、児童書作家として順調に歩んでいるようです。
小学6年生の女の子・花は、ことあるごとに災難がふりかかる不運体質。逆にラッキー体質の親友・蜜や、幼なじみでクールな男子荒野に助けられつつ、明るく元気でクラスを盛り上げる人気者です。
しかし花と蜜のこの体質は、死神が実験のために仕組んだものだったーーということが、プロローグで語られています。異世界に運命を左右される女の子のお話、このシリーズ読者の好奇心をくすぐる設定です。
そのうえ運が悪いことを気にせず、ひたすら前向きな花は、死神の思い通りにはならない予感。人間界に忍び込んだ死神との関係も面白なっていきそうです。花が恋愛体質ですぐにイケメンにひとめぼれとか、逆に花に思いを寄せる同級生ライバルとか、小学生的な恋愛要素もあり、エピソードのバリエーションも広がりそう。高学年女子にはツボがたくさんあるのでは。
名作の新訳やヒット作の新書化、ノベライズ作品などが多い児童書新書の中で、青い鳥文庫は新しい作家や、書き下ろしのシリーズが次々出てきていますね。出版社ごとの傾向が見られるようで、興味深く観察しています。
(makio)
『超絶不運少女1 ついてないにもほどがある!』
石川宏千花/著 深山和香/絵
講談社青い鳥文庫 2011年5月
土
01
10月
2011
ぼくがバイオリンを弾く理由
第1回ポプラズッコケ文学賞奨励賞受賞作です。スカイエマ挿画つながりで探したら、文学賞受賞作にたどりつきました。
自信満々で臨んだバイオリンコンクールで落選、バイオリンをやめようと決意した小学5年生のカイト。寄宿していた神戸から自宅のある広島に戻り、さまざまな出会いを通じて成長するひと夏の物語でした。
コンクールのために派手な演奏をするライバルへの抵抗、家族からひとり離れてのレッスン生活、ずっと一人っ子だったのに兄弟が生まれると知った驚きなど、少年のたまった不安が爆発するに十分なはじまりでした。
会場を飛び出して戻った広島駅で父親と出会い一緒にお好み焼き屋に入るのですが、お好み焼きを焼く職人技の描写が続き、夢中で食べるうちに不安がだんだんとほぐれていくという場面が印象的でした。緊張感あふれる神戸からゆったりした広島の夏へと、スムーズに展開していく転換点となっていました。
その後の、元同級生のサッカー少年、いとこや近所のおばあちゃん、音楽家たちとの出会いは、どれもカイトに寄り添う、いい話です。広島という背景なので、戦争や原爆にまつわる部分もあり、そこも成長のきっかけになっています。少しうまく行き過ぎ?という気もしないでもないですが、前向きで爽やかになれる読後感でした。
(makio)
『ぼくがバイオリンを弾く理由』
西村すぐり著
ポプラ社 2008年10月
水
07
9月
2011
テッドがおばあちゃんを見つけた夜
勤務している中学校の図書室で購入しようと、スカイエマさんの挿絵作品をあれこれ読んでいるときに出会いました。
主人公のテッドは中学1年生で両親とアルツハイマー病のおばあちゃんと4人で暮らしています。ある日、両親が不在でおばあちゃんと留守番をしていたテッドが、ネコの餌やりを頼まれ隣家の納屋に行くと、そこにいたのは見知らぬ怪しい男! その風貌は町で起こった銀行強盗の犯人にそっくり!!
テッドはおばあちゃんを残して連れ去られてしまいます。
テッドは何度も脱出を試みますが、逃げ出すことができません。
自分の身の危険もあるし、残してきたおばあちゃんのことも気にかかるし・・・と、ハラハラドキドキの展開です。
テッドの、大好きだったおばあちゃんが変わってしまったことへの戸惑いだとか苛立ちだとか複雑な気持ちも読んでいると胸に迫るものがありました。
(ニャン左衛門)
『テッドがおばあちゃんを見つけた夜』
ペグ・ケレット 徳間書店 2011年5月
日
28
8月
2011
ピアチェーレ 風の歌声
公募新人賞の、第8回日本児童文学者協会・長編児童文学新人賞受賞作品が単行本化、その年の第21回椋鳩十児童文学賞を受賞という華麗なデビューを飾った作品です。
その背景や、表紙、装丁、タイトルなどから正統派の児童書、という印象がありますが、作品自体は意外とライトな読み心地でした。
母親が亡くなった後、父親は別な家庭を持ち、祖父母、叔母、弟と暮らしている中学生、嘉穂。父にも、一緒に住む家族に遠慮して、部活も習い事もせず、すすんで手伝いをする、いわゆる「いい子」ですが、無理をしている自分にも満足できないでいます。
あるきっかけから声楽に目覚め、才能を認められ先生について習い始めてから、自分自身も変化していく、という成長物語です。
歌の才能に目覚め、周りも驚き、その音楽に圧倒されていく、というのは、漫画でも最近多くみかけますが、この作品もそれに通じるものを感じました。絵や文字という二次元で音の様子が再現され、それを読み手が感じる、という読み方に慣れているティーンズにも受入れやすいのでは。
友達の片思いや、その相手であるピアノの才能ある男子、その母親である声楽の先生、など登場人物もイメージしやすく、ちょっと少女漫画風なイメージもあります。ハードカバーでまじめそう、と思わず気軽に読んでほしい作品でした。
『ピアチェーレ 風の歌声』
にしがきようこ 小峰書店 2010年7月
水
08
6月
2011
鍵の秘密
1998年に第4回児童文学ファンタジー大賞奨励賞受賞作品です。大幅に加筆修正され2010年11月に刊行されました。
刊行時に、「著者は超長編しか書かない」というような情報をどこかで見て気になっていました。本書は696ページ。A5版ハードカバーでずっしり重く、何度か外出に持っていき後悔しました……。確かに子どもの頃読んだ長くて厚い本は、図書館や家で読むものでした。子どもの本も新書など軽い本が増えているけど、「持ち歩かない本」も児童書の魅力のひとつかもしれません。
物語は、主人公の小学生ノボルが、別の世界に出入りできる鍵を拾ったことから始まります。鍵の向こうには、悪の手によって闇に閉ざされた城があり、陰謀によって捕われた王女が助けを求める手紙と鍵を、救うべき人物に託す。その選ばれた人物が、ノボルというわけです。ノボルの父親は2年前に突然失踪していて、そのことと関係あるかもしれない、と考えて別世界に向かい、さまざまな人物との出会いや、こちら側にいる友だちとの葛藤などを経ながら冒険を繰り広げます。
もう一つの世界、選ばれた者、悪の陰謀、囚われの姫など児童ファンタジーらしい設定や、勇気・友情・冒険などが絡み合う展開で、ある意味安心して読めました。ハリポタの次に何を読めばいいかわからない、という子どもたちにも入りやすいのでは。主人公が日本人で、学校や友だちの描写も多いので、共感を持ちやすいかもしれません。
異世界で賢者や占い師と冒険しながら、父親のことを思い葛藤するノボルが、少し気負いすぎな印象もありますが、学校で合唱の練習をしたり、親友と暗号で手紙をやりとりする小学生の生活に、安心感があります。テープ起こしの仕事やヨガ教師になるための学校に通うお母さん、近所に住むさみしいおばあさん、北川さんも、いい存在です。このあたりが、海外ファンタジーにはない面白みでしょうか。
(神谷巻尾)
金
27
5月
2011
宇宙のはてから宝物
今年度児童文芸新人賞受賞作です。
主人公は小学6年生の女の子、あかり。「好きなものは、いちごキャンディーと、ぞうのぬいぐるみのスージーと、由宇。由宇はあたしのことを宇宙一わかってくれる男の子」とか、「多感な女の子のあかりと、彼女をそっと見守る由宇の心温まるお話」などの紹介文をみると、夢見がちな友情物語かと想像しましたが……そのイメージとはかなりギャップのある、ダークな側面のある作品でした。
宝物箱やぬいぐるみを手放せないというのは、6年生にしては幼すぎる設定ではと思ったら、実はふたりともかなり深刻な家庭環境にいました。
あかりの母親は「心の病気」で外出ができず、由宇の母はアルコール依存で夫婦喧嘩が耐えない。そこから逃げたり、反抗したりする術もないふたりは、なんとか折り合いをつけるために心のよりどころとして宝物や、想像の世界を持っている。その状況がわかるにつれ、いちごキャンディーとか、ぞうのスージーなどへの見方が変わってきます。
ただ、親への複雑な心情、クラスメートや教師に対するいらだち、またそのなかで見つける楽しみなど、ふたりのストレートな行動や表現が子どもらしく、陰湿さに向かわないところが好感が持てました。
タイトルや、こみねゆらのほのぼのイラストで手に取ると、裏切られた感はあるかもしれませんが、別の意味で収穫はあると思います。
(神谷巻尾)
「宇宙のはてから宝物」
井上林子作 こみねゆら絵
文研出版 2010年12月
水
18
5月
2011
愛をみつけたうさぎ
写真?と思うような表紙ですが、絵なんです。
文章はケイト・ディカミロさん。絵はバグラム・イバトーリーンさん。出版社はポプラ社です。著者のディカミロさんの作品はAmazonの紹介文にもある通り「ねずみの騎士デスぺローの物語」が有名らしいです。「デスぺロー」は2004年のニューベリー賞を受賞したとか。今度読んでみなくっちゃ。
うさぎの人形って珍しいですよね。それもそのはず、おばあさんから孫へのオーダー品なんです。ですが、実のところ、このうさぎのエドワードはおばあさんを失望させています。理由ははっきり書かれていませんが、理由はその部分まで読み進めた人ならわかるはず、です。この<人形のあらまほしき資質>みたいなものについては、ルーマー・ゴッデンも物語で書いていますね。(1冊でなく数冊に共通で書かれていたような?)
訳者のあとがきによると、人形の物語ということで「ピノキオ」を思い出したようですがワタシは内容からなんとなく「100万回生きたねこ」を連想しました。愛を知らない傲慢さと、愛を知った後の悲しさの対比からじゃないかなと思っています。
著者は日本の読者へのあとがきで「旅についての物語」であり、「心の旅についての物語でもあります」と書いていますが邦題のように「愛を見つけ」るまでの物語、というのが読んでいてしっくりきました。この邦題、うまいなー。ちなみに原題はサブタイトルの「エドワード・テュレインの奇跡の旅」です。
そして、この愛って普遍的な愛ともとれますが流れ的に、とっても恋愛のムードに近い感じがするんです。ワタシだけかな?
他の世界を知らない幼い時期、保護してくれる人たちの無償の愛を感じつつ、それを当たり前と思いなんら関心を持たない傲慢さ。やがてとある事故により、今までのものをすべて手放したままひとりぼっちになってしまう。新しい人たちとの出会い。愛されることを嬉しく思うが、相手の思い込みなど、気に入らない部分も受け入れねばならない。自分の意志ではない別れ。そしてさらなる新しい出会い。交流する人が増え、内面が豊かになっていく。けれど出会いと愛と別れがくりかえされることで心がくだけそうな悲しみを何度も味わい愛などいらないと諦めようとする。しかし、歳月がたつうち、心を開いて待つことをおぼえやがて運命の出会いがやってきた…。
どうでしょう、こんなふうに書くと、とってもロマンスな感じしませんか?
土
22
1月
2011
この世のおわり
もう少し早く読んでいたら、昨年のベスト本に入れたのに…と、思える1冊でした。
キリスト教の終末論を柱に、この世の終わりを食い止めようとする修道士と吟遊詩人、不思議な少女の3人がヨーロッパを旅する、壮大な物語。『漂泊の王の伝説』で日本でも注目されたスペインの女性作家、ラウラ・ガジェゴ・ガルシアが20歳の時に書き上げたデビュー作です。
主人公たちは、世界を救うために必要な3つの宝石「時間軸」を探す旅に出ますが、それを阻む闇の秘密結社や強欲な権力者との手に汗握る攻防を繰り広げます。か弱く書物に夢中で修道士のミシェルと、たくましく世事に長けている吟遊詩人マティウス、独立心旺盛な少女ルシアという3人の絶妙なバランス、歴史ファンタジーや冒険物語としての面白さなどはもちろんですが、非常に魅力に感じたのは、懐の深さ、柔軟性のようなものです。
中世ヨーロッパが舞台、しかもキリスト教が大前提の物語では、宗教観になじみがない日本人としては今ひとつ入り込めないことが、ままあります。しかしこの作品の、宗教者と吟遊詩人と魔女の血を引く娘、という組み合せは、それ自体相容れないもの。欧米人にとっても「他者」どうしが、共鳴しあい、受け入れていくという過程は、異文化圏の人々にも受入れられやすいのではないでしょうか。また、男女格差、マイノリティー、貧困など、現代にも通じる問題が盛り込まれ、時代も舞台も違うのに身近に感じられます。
木
30
12月
2010
【特集:今年のベスト本】『走れメロス』
学校の授業で習うとその小説がつまらなくなってしまうことがあって、おそらく『走れメロス』は、“学校で習ったせいでつまらなく感じてしまう小説”のトップに冠されると思う。それは、『走れメロス』を“美しい友情を奨励する教訓”のように読むことが可能だからだ。
疑い深く、次々と家族忠臣を殺していた王に、死刑を宣告されるメロス。彼は、“死はいとわないが、妹の結婚式に出るために3日だけ猶予がほしい。もし私が帰ってこなかったら、友人のセリヌンティウスを殺してくれてかまわない”という。王との約束を取りつけたメロスは、故郷に帰ってから結婚式を済ませ、再び王の元へ走る。途中いくどもくじけそうになるメロスだが、最後には死刑場にたどり着き、セリヌンティウスと抱き合う。それを見た王も改心してめでたしめでたし、が『走れメロス』のあらすじだ。
でも、これはほんとうに美しい友情の話なのだろうか? 実は、文中で作者の太宰はメロスをこう描写している。
“メロスは、単純な男であった。買い物を、背負ったままで、のそのそ王城にはいって行った。たちまち彼は、巡邏の警吏に捕縛された。”
この一文にひっかかると、『走れメロス』は友情万歳話から、無謀な若者が乱暴な約束を取り付けてしまい、途中でくじけそうになるがなんとか大義を忘れずに約束を守り通す話に変わる。バカな奴だって約束を守るくらいの意地はあるという話でもいい。太宰治だって別に「友情はすばらしー」と描きたかったわけじゃないかもしれない。
文豪太宰治の『走れメロス』を中心に編まれた短編集は児童文庫でも大人気で、フォア文庫、青い鳥文庫、偕成社文庫、岩波少年文庫、角川つばさ文庫から発売されている。でも、つばさ文庫が抜群に面白い。子供向けの作りだけど、大人にだって初めて太宰を読む人にはこれを勧めたいくらいだ。
それは、これが太宰のユーモアと情けなさを軸に編まれているからだ。 たとえば、『黄金風景』。うだつのあがらない作家生活を送っている主人公の元に、子どものころにいじめていた女中があらわれる。女中が品のいい中年の奥さんになっているのを見た主人公は、思わず逃げ出してしまう。だけど、その後彼女が自分を恨んでおらず、むしろ誇りに思ってくれているのを知り、心地よい負けの感情に包まれる。
木
23
12月
2010
【特集:今年のベスト本】『くつやのねこ』
「長靴をはいた猫」を下敷きにした絵本です。
繊細で可愛らしい絵が印象的です。 貧しい靴屋と暮らしているネコがその知恵を働かせて、何にでも変身できる魔物から靴の注文をとりつけますが、代金を払ってもらえなくて・・・。 話は単純ですが、クライマックスの絵が衝撃的です。
『くつやのねこ』
いまいあやの BL出版 2010年5月
木
16
12月
2010
【特集:今年のベスト本】 『僕とおじいちゃんと魔法の塔』
香月日輪 最高のエンタメです。
主人公に成長がない?・・・いいんです。そーゆー話ではないのですから。 とんでもない人間(人間外)が繰り広げるやりたい放題の物語ですもの。 いや、主人公の龍神も第1巻でちゃんと成長します。
でも、2巻以降は個性的なキャラたちに押されて透けてきます(笑) そして、この本も『妖怪アパート』とリンクしています。 ちなみに、この本を同じ学校の40代の栄養士に貸したら面白くて10回読み返したそうです。
(ニャン左衛門)
『僕とおじいちゃんと魔法の塔』①〜③
香月日輪 /著 角川文庫 2010年
月
13
12月
2010
きのうの夜、おとうさんがおそく帰った、そのわけは・・・・・・
今年度、第48回野間児童文芸賞受賞作品です。
夜なかなか帰ってこないおとうさんは、いったいどこでなにをしているんだろう。息子「あっくん」の疑問に、おとうさんがそのわけを説明する、という短編集です。
野間児童文芸賞といえば、児童文学賞のなかでもっとも権威があるといわれています。過去には、松谷みよ子「小さいモモちゃん」(2回)、斎藤惇夫「ガンバとカワウソの冒険」(18回)、角野栄子「魔女の宅急便」(23回)など児童書の名作のほか、あさのあつこ 「バッテリー」(35回)、たつみや章「月神の統べる森で」(37回)、椰月美智子「しずかな日々」(45回)などYA世代向け作品への授賞も多く、幅広い児童書から選んでいます。
「きのうの夜、」は小学校低学年向けですが、なかなか味わい深く、児童文学賞の受賞もなるほど、という印象の良書でした。
各短編は、おとうさんが寝る前のあっくんに、きのう遅くなったわけを語りかける、というスタイルですすみます。あるときは帰り道にモグラやみみずに出会って地下深くまで穴掘りをし、あるときはくまがとばした帽子をとるために木登りをして、とおとうさんは動物たちに頼まれてさまざまな冒険をします。
その冒険は、世界の危機を救い、家族や人々のくらしを守るために必要なことがわかり、一生懸命がんばるおとうさん。野球、木登り、ボート漕ぎなどで大活躍したお父さんは、こんどはあっくんと一緒にやろう、と話します。
日
28
11月
2010
【特集:今年のベスト本】「ミラクル☆コミック3 ホントの世界をつくろう」
私のベスト1は、「ミラクル☆コミック3巻 ホントの世界をつくろう」です。
本作シリーズの主人公は、マンガ読みの両親のもとで育てられたサラブレットのオタク少女です。
ある日、憧れの漫画家先生にファンレターを書いたことがきっかけで、近くにある仕事場にお呼ばれされます。当日、お邪魔してみるとその日が連載マンガの締め切りで、アシスタントの人もお休みで人手が足りない。
あれよあれよと主人公がマンガ描きの手伝いをすることになって……と、ここまでは多少のツッコミどころはあろうと予想の範囲内だったのですが、そのあと、こちらの想像を上回るカオス展開に突入していきます。
これだけだと、ただドタバタでコメディタッチな内容の作品なのかと思われるかもしれませんが(実際そういった側面もありますが)、本作の真骨頂は「寓話性と社会風刺性」だと思っています。
主人公は両親の影響によりマンガ好きであることが災いし、なかなか気が合う友だちができません。そんな日々、自分に話しかけてくれたクラスメイトの女の子と仲良くなりたいと、マンガ修行を通じてコミュニケーションの仕方を学んでいきます。
この主人公をとりまく出来事が、実は現代の社会状況をかなり反映していて、娯楽作ではありますが「いまの子どもたちの持つ悩み」にかなりコミットしていると思えます。
また、作品の柱となってる“あるギミック”が社会学などでも言われている社会状況を的確に映していて、こちらでも感心させられました。
3巻で扱われているのは、主人公をいじめてきた「いじめっ子の心理」です。
実はこれも、有識者が指摘するようないじめっ子の心理分析とかなり合致していて、「児童文学」としてかなり良書なんじゃないかと唸らされました。
近年言われている「児童文学のライトノベル化」という流れにあって、イラストからしてライトノベルチックな作品なのですが、娯楽要素を担保しつつ、現代の子どもたちの問題を描くという「ライトノベル的児童文学」みたいな可能性を感じさせる作品だと思います。
騙されたと思って、読んでみて頂きたい一冊です。
(すがり)
月
27
9月
2010
「つづきの図書館」
今年度、第59回小学館児童出版文化賞受賞作品です。
故郷に戻り、図書館分室に司書として勤めることになった40代バツイチの桃さん。そこにあらわれたのは「読んでくれた人のつづきが知りたい!」と、絵本の中から出てきたはだかの王様や、狼。彼らと一緒に人探しをしながら、自分自身の思い出もよみがえってくる。そんなファンタジーです。
次々に絵本の登場人物が出てきて、それぞれの謎をとく、というミステリー仕立ての連作短編集のおもむきですが、最初「青い鳥文庫」のサイトで連載していたからでしょう。web連載発というものもあって当然な時代でしょうが、小学生はネットで小説を読むのか、というとどうなのでしょうか。
書籍には書き下ろしも加わり、各話にちりばめられた仕掛けが結びつき、桃さんの物語としての結末を迎え、長編としての充実した読後感を味わえました。
作者の柏葉幸子さんは、『霧のむこうのふしぎな町』が著名な、主要な児童文学賞総なめの、児童書ファンタジーの大御所作家、という印象があります。ちょっと変わり者ぞろいの登場人物、自然なファンタジー要素、物語のわくわく感などとても児童書らしく、「絵本の次に読む本」として子どもが入りやすい本なのでは、という気がします。変に教訓じみたり、感動的になりすぎたりしないところも好感が持てます。
さて、賞のほうもちょっと調べてみました。小学館児童出版文化賞は、1952年に「小学館文学賞」「小学館絵画賞」として創設、1996年に統合して改称されました。
選考対象は、1年間に発表された絵本、童話・文学、その他(ノンフィクション、図鑑など)と幅広く、過去の受賞作も、伊藤たかみ『ミカ!』(49回)、森絵都『DIVE!』(52回)、長谷川義史『ぼくがラーメンたべてるとき』(57回)、松岡達英『野遊びを楽しむ里山百年図鑑』(58回)など、さまざまなジャンルの作品が並んでいます。
今回W授賞となった『ぶた にく』も豚が肉になるまでを追った、ノンフィクション写真絵本です。 賞のサイトには候補作が並んでいましたが、この1年の児童書関連の話題作、注目のテーマ一覧、といった様相でおもしろかったので掲載してみました。
月
30
8月
2010
C&Y地球最強姉妹キャンディ 大怪盗をやっつけろ!
怪盗を敵に回して子供たちが大活躍! という話は少年探偵シリーズの昔から数多くありますが、本作ほど破天荒でかつ子供たち自身が大活躍する物語はそうそうありません。
主人公は、11歳にして大学で先生をしている世界一頭のいい女の子、竜崎知絵と、抜群の運動神経とサバイバル能力を持つ地球最強の女の子、虎ノ門夕姫です。
ふたりは親の再婚で姉妹となるのですが、そうとは知らずに出会った当日、知絵は自らの新発明を怪盗アラジンに狙われ、車で誘拐されてしまいます。 その場に居合わせた夕姫は、なんとローラースケートで追跡を開始! 序盤早々、手に汗握るアクションシーンが展開されます。
敵役であるアラジン配下の悪人トリオは、ちょっとおマヌケでどこか憎めないタイムボカンシリーズを彷彿とさせるキャラクター。アラジン自身も、怪人二十面相に負けず劣らずのユニークな怪盗です。
アラジン一味は何度も知絵の誘拐を企て、物語はどんどんスケールアップしていきます。やがてアラジンの真の目的を知った知絵と夕姫は、C&Y――キャンディを結成して、アラジンの企みを阻止すべく敢然と立ち向かいます。
とにかく全編に渡ってハラハラドキドキの連続で、マンガやアニメを見ているような楽しさいっぱいの冒険ストーリーになっています。390ページとボリュームがありますが、そんな長さを感じさせないくらい、物語もキャラクターも魅力に溢れています。ハリーポッターなどと同じく、子供たち自身が読みたいと思えるような作品としては最良の一冊だと思います。
作者の山本弘さんは本作を自分の娘に読み聞かせるために書いたそうですが、なんとも幸せな娘さんです。子供に読書への興味を持ってもらいたいなんて思っている方、「C&Y 地球最強姉妹キャンディ」なんていかがでしょうか。
(すがり)
『C&Y地球最強姉妹キャンディ 大怪盗をやっつけろ!』山本弘
角川グループパブリッシング(銀のさじシリーズ) 2008年
火
27
7月
2010
漂泊の王の伝説
外国の作品をあまり好まない私が近年特に気に入った本です。
スペイン人作家による砂漠の国を舞台にしたアラビアンナイト風のファンタジーです。
主人公はキンダ王国の王子ワリード。
「若くて、端正で、りりしくて、寛大で、分別があり、聡明で、、勇敢で、すぐれた戦士というだけでなく、教養人でもあった」と作中に書かれているとおりに完璧クンです。
そんなワリードが情熱を傾けて、自信を持っているのが「詩」でした。 ほかの誰よりも優れた才能を持っていると自信満々ですが、詩のコンクールを三度開き、三度とも身分の低い貧しい絨毯織りの男に完膚なきまでに負け、プライドも打ち砕かれたことで、ワリードと絨毯織りの男に苛酷な運命の輪が回り始めてしまうのです。
プロローグで、ワリードが命の危機にさらされている場面から始まるので、私はバッドエンドに繋がる展開ばかりをつい考えながら、ドキドキこわごわ読み進めていきました。
また、ワリードが転落し漂泊するまでの話が全体の三分の一ぐらいなので、そこもまた苦しい。小心者なので(笑) 父である王が、死ぬ間際に言って聞かせる言葉も心に残りました。
「われわれはみな、自分のすることに責任がある。よい行いにも悪い行いにも。そして、人生はかならず、おまえのした分だけ返してよこす。忘れるなよ。人生はそのつぐないをさせるということを。」
でも、ワリードはこの時点では理解してなかったんですね。
やがて漂泊することになるワリード。
盗賊、牧人、愛すべき女性、富豪などに出会い、その中で成長し変わっていきます。
やはり、児童書は主人公が成長しなきゃ、と思います。
最近の作家であり、訳者の解説によると日本の漫画やアニメが好きということで・・・。だからなのか、読んでいて情景が頭に容易に浮かんできました。アニメかラジオドラマになったら良さそうな感じです。私は見たい(聴きたい)です。
(ニャン左衛門)
『漂泊の王の伝説』ラウラ・ガジェゴ ガルシア
偕成社 2008年
火
06
7月
2010
5分でわかるアリエッティ——『小人の冒険シリーズ』入門
「借り暮らし」ってなに?
鉛筆や裁縫用の針のような、ちょっとしたものがなくなってしまうことはありませんか?それは床下で暮らしている小人が持って行ったのかもしれません。「借り暮らし」とは、床下に住み人間のものを黙って拝借して生活している小人のことです。
『小人の冒険シリーズ』ってなに?
『小人の冒険シリーズ』は、借り暮らしの少女アリエッティを主人公としたイギリスの児童文学です。シリーズは全5巻です。
『床下の小人たち』(1952年)
『野に出た小人たち』(1955年)
『川をくだる小人たち』(1959年)
『空をとぶ小人たち』(1961年)
『小人たちの新しい家』(1982年)
作者のメアリー・ノートン(1903-1992)はロンドン生まれの作家です。『床下の小人たち』でイギリスの代表的な児童文学賞であるカーネギー賞を受賞しています。
借り暮らしは人間に見つからないようにひっそりと生きてかなくてはなりません。しかし主人公のアリエッティは好奇心旺盛で奔放な性格で、人間と接触したり危険な行動を繰り返してしまいます。そのためアリエッティの一家は住んでいる家から出なければならない羽目に陥ります。シリーズでは主にこの脱出劇が語られています。
シリーズのみどころは?
シリーズのみどころはふたつあります。
ひとつは冒険小説としてのおもしろさです。脱出劇が物語の軸なのですが、手を変え品を変えいろんなシチュエーションを楽しませてくれます。たとえば、下水道を通っての脱出劇、やかんを使った川下り。さらには、小人たちの手で気球をこしらえて、空の旅まで実現してしまいます。
メアリー・ノートンは細部にこだわった緻密な描写で、こうしたスリリングな冒険を臨場感たっぷりに盛り上げています。冒険小説としてのおもしろさは特上といって間違いありません。
金
18
6月
2010
ユリエルとグレン
児童書ってどんな文学賞があるの?と前々から気になっていたので、ここでは文学賞受賞作品を読んでいこうと思います。
ということで「ユリエルとグレン」、今年度の児童文学者協会新人賞受賞作品です。
予備知識なしに図書館で取り寄せてみたところ、表紙を見てびっくり。ハードカバー児童書なのに、なんという萌えイラスト。しかもやけに完成度が高いのでは、と思ったら装画は「黒魔女さんが通る!!」シリーズの藤田香さんでした。この作品は、2008年に講談社児童文学新人賞佳作を受賞した作品。著者石川宏千花さんへの、講談社の期待度が伺えるといえましょう。
さて作品の方は、表紙イメージや副題の「闇に噛まれた兄弟」が示すとおり、ヴァンパイアに襲われた美少年の兄弟の物語です。
兄のグレンと弟のユリエル、それぞれの「血」に秘密があり、謎を解く旅の途中で様々な事件に遭遇、困難に立ち向かいながら成長して行きます。
あまりに美しい兄弟愛にうっとりするお姉さん読者も多そうですが、ローティーンの女の子も惹き付けられそうな要素がいろいろあります。
生きるために兄弟の結びつきが必要、ということがすんなり受入れられる設定だし、吸血鬼や狼男など異生物を扱う聖職者のトリストラムとテレンス、ヴァンパイアハンターを探しているエヴァンジェリンとアンジェラという少女など、主要人物がペアというのも、子どもに受けそうですね。
児童書のヴァンパイアものといえば「ダレンシャン」が人気ですが、こちらは友情と冒険テーマで男の子に支持されているもよう。兄弟、家族、血族、ちょっぴり恋愛風味もある「ユリエルとグレン」は、女の子が好きそう。
1巻は人物造形や表現など若干気になる部分もありましたが、2,3巻と進むにつれぐっと面白くなっていくとか。追って行きたいシリーズです。
(神谷巻尾)
『ユリエルとグレン』
石川宏千花 講談社
月
14
6月
2010
ともだちくるかな
絵本です。
小学生も高学年になると絵本を読まなくなります。「絵本は小さい子が読むもの」と思い込んでいるようです。
でも、普通に子供向けに描かれている絵本でも小さな子だけに読ませておくにはもったいない本がたくさんあります。
大人向けとか「感動の絵本」「泣ける絵本」なんていわれる本よりもずっと面白くて心に響く絵本もあるので、固定観念を取っ払っていろいろ手を出してほしいなと思います。
この本はキツネとオオカミの「ともだち」シリーズの中の一冊です。『ともだちや』で始まった友だち同士。
今回はオオカミが誕生日ということで、友だちのキツネが訪ねてくるのを信じて楽しみにしています。でも、待てど暮らせど来ない。すっかり悲しくなったオオカミは・・・
色がはっきりしていて可愛い絵がとても魅力的で、毎回変わるキツネのファッションも楽しみどころです。
シリーズはどれも面白いのですが、個人的にはオオカミの初恋話の『きになるともだち』はイマイチです。あくまで個人的には、ですが。
なので、勤めている図書室に寄贈しちゃいました(笑)
最新刊の『ともだちごっこ』もどうだろう?と思いましたが、平気でした。
(ニャン左衛門)
金
04
6月
2010
十五少年漂流記 (波多野完治訳)
日本人なら誰もが知っている「十五少年漂流記」ですが、フランス人は意外と知らない人、多いんですよ。
日本人って少年に過酷な試練を与える話が好きですよね。
ガンダムのアムロ・レイしかり、エヴァンゲリオンの碇シンジ君しかり。
子どもを決して子ども扱いしない。そんな日本の伝統は大事にしないといけません。
そして読み聞かせは是非、波多野訳にしましょう。
何より日本語が素晴らしいのです! 淀みない名調子に、自分の朗読スキルがアップしたかのような錯覚を覚えるほど。
さすが文章心理学者だけのことはあります。
翻訳ものって「日本語として、これってどうなのよ!〜」という文章が多くてイラッとします。この文章、どこへ行きたいの? 聞いてる子どもも「?」なら 大人も「??」。
冒険はお話の中だけで十分ですよね。
子どもが最初に出会う物語にふさわしい「美しい日本語」。
是非、親子で味わってほしい名作です (山本文子)
『十五少年漂流記』ジュール・ヴェルヌ (著), 波多野 完治 (翻訳)
新潮文庫
月
31
5月
2010
ぼくらは海へ
「イチオシの1冊」というお題をいただいた時に、日本児童文学史上最大級の問題作でありながら長らく絶版になっていた作品が文春文庫で復刊されるという嬉しいニュースを聞いたので、その作品を紹介しようと思います。
那須正幹は「ズッコケ三人組」シリーズでおなじみの、日本を代表する児童文学作家です。もちろん「ズッコケ三人組」シリーズは大傑作なのですが、それだけで那須正幹という作家を語ることはできません。長編、短編、ショートショートにノンフィクションと、あらゆる分野にまたがって世代をこえて語り継がれる傑作をものしています。
そういった傑作のひとつが「ぼくらは海へ」です。刊行されたのは1980年1月。文字通り80年代児童文学の幕をこじ開けた問題作です。
小学六年生の少年たちが埋め立て地で子供の力だけで筏を造る物語です。筏作りの模様は非常に緻密に描写されていて、ものを作り上げる楽しみを疑似体験することができます。
しかしこの物語は楽しいだけでは終わりません。少年たちは家庭にそれぞれ複雑な事情を抱えていて、当然の帰結として物語は悲劇に向かって突き進んでいきます。
様々な論争を呼んだ結末については、ここでは触れないことにします。まだ読んでいない方は、文春文庫版でぜひ自分の目で確かめてみてください。30年も昔の児童文学がここまでの高みに達していたという事実に驚かされるはずです。
(yamada5)
『ぼくらは海へ』那須正幹
偕成社文庫(絶版)
文春文庫(2010年6月発売)
火
18
5月
2010
精霊の守り人
「守り人」の最大の魅力は、なんといっても主人公の女用心棒、バルサです。
まず驚いたのが、バルサの描写。「顔にすでに小じわが見える」30歳のヒロインなのですよ。シリーズが進むにつれ、最後は確か37歳。独身のアラフォーです。普通ファンタジーで、強い女性が主人公なら、若くて(というか少女)美人(というよりかわいい)、がお約束かと思いますが、それを軽く裏切ってあまりあるバルサの活躍には、子ども以上にきっと大人の読者も引き込まれるでしょう。
幼なじみの薬草師タンダは、傷を負ったバルサを献身的に介抱し、料理も上手な、年下男子。タンダの師匠、呪術師トロガイは70歳のスーパーお婆ちゃん、と、ステレオタイプではない登場人物たちが、とてもいい。文庫最新刊『神の守り人』にも、数奇な運命を背負う兄弟、信頼の厚い王、不穏な動きをする王の使いなど、人物造形がはっきりして魅力的な人々が物語の中で自然に立ち動いている印象です。
それからもうひとつ、登場するものの名称や、ディテールが凝っているのも面白いところ。地名や民族、国ごとの言語、動植物や食べ物の名前など、詳しく記され、使い分けられています。特に料理の名前とその描写はすばらしく、「あつあつのバム(無発酵のパン)に、たっぷりのラ(バター)」とか、「ジャイという辛い実の粉とナライという果実の甘い果肉をつけこんだ鳥肉」を飯にまぶした「ノギ屋の鳥飯」など、印象的な食事シーンがたくさんあるのです。
そんな守り人メシファンに向けてか、上橋作品に出てくる料理を再現した本『タンダの食卓』も昨年刊行されました。上橋さんの児童書体験や、作品中の料理についてのエッセイも収録されており、児童書読み心をくすぐる内容です。
食べ物も人物も、国も時代も、ファンタジーながら設定がしっかりしていて詳細な部分にぬかりはなく、どことも限定されていない場所に連れて行ってくれる、という児童書を読んだ感いっぱいになれる本です。
(神谷巻尾)

